ラストサマーインターンシップ 後編

二日目、前日より30分早く会場に集合。一日目で少し安心感を得たため特にお腹の調子も悪くなかった。そして、一日目から班が変わっていた。このインターンでは、二日目以降の班替えで優秀な人の集まる、出来レース班が作られると聞いていたが、まさにここがそうか、という班が一つあった(以降5班)。5班にはタルミが所属していた(やはり、と思った)。自分は正直、残念ながらなんでもない平凡な班に所属した。若葉の班(以降3班)は、そこまで目立って優秀な人がいるとは思わなかったが、あとから考えると優秀な人も多かったのかもしれない。ただ一日目の活動からして若葉が優秀な人材として3班に召集されたとは思わなかった。優秀な人材をとるなら、スジのほうが上だし、女性という枠があるとするならガリの方が上であるはずだったからだ。スジとガリはそれぞれ、おれと同じように普通めの班に所属していた。後からきくと、もう一つ優秀な人の集まっている班(以降1班)があったらしい。

結果からいうと3班が優勝、5班が準優勝、1班が学生投票1位を獲得した。

ワーク開始前に、5人の班員を紹介する。高身長で誰からも愛されるような性格・顔の阪大院生(以降、トライさん)、キディの法学部3回生女(以降、キディ)、物静かな神大女(以降、林)、そしてまさかの一日目に引き続きロン毛顔でかおもんな男の西本、最後に遅刻してきたフリークM2大原さん椿さんにしゃべり方や顔が似ている男(以降、フリーク)だった。この日も話しやすい人が多くて助かった。他の班でにぎやかな人はどちらかというとおもしろくない人間のノリだったから。ただ西本はこの日も昨日4時まで飲んでて、というトークから入っていて見下さざるを得なかった。

二日目以降のワークは今回のメインタスク、大阪ガスのエネルギーバリューチェーンにおける新規事業立案というものだった。ここでもやはり分厚い資料(28ページだったので他のインターンと比べるとマシなのかもしれない)の情報を用いて戦略を立案するという形式がとられた。また、足りない情報は随時検索してもよいという条件があり、これはタスクの大幅な増大を意味していた。検索能力、検索体力のない自分はこの点にも苦しめられたといえる。

議論開始後、トライさんの専攻がエネルギー関係であることが分かった。ワークを通じて、具体的な知識・データを持ち出して円滑に進めてくれたので助かった。タスカタの扉は半開きだった。しかし、何よりフリークが最も賢かった。M2で皆より歳くってるのはでかいで、と言っていたが、彼の本質を見通す力には目を見張るものがあった。何より彼のおかげで議論が、立案した戦略が机上の空論にならずにすんだ。

 

 

議論開始後、トライさんの専攻がエネルギー関係であることが分かった。ワークを通じて、具体的な知識・データを持ち出して円滑に進めてくれたので助かった。タスカタの扉は半開きだった。しかし、何よりフリークが最も賢かった。M2で皆より歳くってるのはでかいで、と言っていたが、彼の本質を見通す力には目を見張るものがあった。何より彼のおかげで議論が、立案した戦略が机上の空論にならずにすんだ。すべての発言に対して、なんでそう思うの?なんでそれが必要なん?それってほんまにそうなん?という風に、いわゆるタテの思考に長けていた。こんなに自然と事象を深堀して考える人に出会ったのは初めてだった。自分が今まで感覚で生きすぎていたことを痛感した。タスカタの扉はさらに開いた。ただ、先述したように、フリークは大原さんや椿さんに似ていて(しかも椿さんと友達だった)、怖くて、彼の能力とあいまって自分は発言することがかなり億劫になっていた。それは自分以外に対してもそうだった。彼と対等に会話できるのはトライさんだけで、自分を含めたほかの4人は議論についていけず、指示待ちの木偶の坊として座っていた(もはや座っていたというよりもそこに置かれていたとするほうが適切だった時間も多かった)。事実、キディとは弱者どうしの共感で仲良くなった。


議論は進む。トライさんとフリークの議論は白熱している。何か言わなければ、とも思うが話が理解できずに何も言い出せない。事業を立案するにあたって、その実現可能性を定量的に示さなくてはいけない。どれだけの売り上げが見込めるのか、どれだけのコストがかかるのか、具体的に示さない机上の空論に、積み木のお屋敷に、ファンタジー信者に企業は予算を費やせない。自分は数字のデータを扱うのが苦手だ。大学生になったら数学をしなくていいと楽観的に考えていた。大人は数学をしなくていいと甘く見ていた。数学の知識や計算の集中力、取り組む気概等は全て2015年2月25日、京都大学入学試験の受験教室に置いてきた。視線は左上から目の前にうつる。ホワイトボードに書かれている計算はなにを算出したものかもわからない。人事が見ている。さらに間違ったことを言えない緊張が唇を重くした。悪循環。自分の無能さを強く感じた場面の一つだった。


眠気もあって集中力は続かない。無能もあいまって議論が理解できない。繰り返すが、本当に指示待ちの木偶の坊だった。加えて検索能力が低い。なんだおれは、なんだお前は。高校生の時から、この大学生活でなにをしてきた?誘惑に負け続けた二年間だった。甘い蜜を吸い、甘い蜜に浸かり、浸かった分だけ蜜が体にまとわりついて、こんなにも動きを緩慢にさせていた。


その日の夜は、19時に全体として解散した後、班でカフェにいって作業を続行した。プレゼンのパワーポイントはほぼ全てトライさんが作った。院生のほうが作成に慣れているから、フリークが議論をすすめたほうがいいから、という理由で一手に引き受けてくれた。申し訳ありませんでした。トライさんは本当に好印象しかないひとだった。フリークは頭をひねり続けてくれている。この人は本当に格好良かった。顔がではない。自分たちはなんとか理解しようと努めたが、ついていくこともできていない状態を、「ついていくのがやっと」と表現して己を騙していた。その日はなんとか終電までには帰ることができた。他の班には帰宅せずに近くのカラオケで一夜を過ごしたところもあったようだ。自分もそれを覚悟していたので一応着替えをもっていっていた。帰宅し、もし自分がもっと課題に主体的に取り組んでいて、もっと課題に熱意があったなら、大阪で着るはずだったTシャツに袖を通した。インスタントのきつねうどんを食べた後、班のために1時間ほどアイデアを出そうとしたが、特に大したものも出せず、3時には就寝してしまった。


三日目、最終日。前夜考えたアイデアはフリークにうなずいて頂けた。これは嬉しかった。まとめの段階、締め切りまであと2時間というところで売り上げが1桁間違っていたことが判明した。これにはさすがに全員がマロていた。原因となる計算をしたのはトライさんだった。めちゃくちゃに謝っていたが、正直、何もわかっていない、何もしていない自分は、全く責める気になれなかった。フリークが強行策を提案し、時間もほぼなかったのでプレゼンやパワポは全く変更せず、特攻した(結果としては実現可能性という軸への評価は5段階中の3を得ていて、あんま見てないの?と思った)。


そして、全班のプレゼンを全員できいた。話し方や原稿をどれだけ覚えているか、みたいなところでその人ができる人かどうかある程度推定されてしまうのは、おもしろい。できるだけ落ち着いた、どっしりした喋り方で、できる人を演じた。表面だけの振る舞いは得意だ。表面だけで生きてきた。外パリッ、中オワッというキャッチコピーを、自分に、与えます。


全ての発表が終了し、全体へのフィードバックが行われた。学生投票で1位だった1班は、人事評価では2位タイだった。最強集団5班は唯一実現可能性で5段階中の5をたたき出しており(計算が本当に綿密で、唯一戦略に具体的な買収を取り入れていた)、ここがもう一つの2位だった。ただ、将来性という軸でこの2つの班は点が低かった。対して、優勝した3班は将来性で唯一5を出した。それが勝因となったようだ(この班は実現可能性の評価は2と低かった、実現可能性がないものは端から優勝どうこうの検討の余地があるのか?と思ったが)。ただ優勝は本当にすごいです、おめでとう!


ここでのフィードバックは割愛する。


インターン後、懇親会があった。ここでは人事と仲良くなることが重要とはきいていた。が、懇親会ではしゃいでいた学生のノリが気に食わず、積極的に動く気をかなりなくしてしまった。一緒になって学生をイジったり、爆笑している人事を見て距離を置いてしまい、未来の画素はかなり荒くなってしまった。スーパードライをフリークと飲みながら長く二人で話していた。JPモルガンIBDインターンや、海上日動のインターンに行くらしい。この人はやはりすごい。ちなみに海上日動の面接では、留年した理由をきかれて、前日東京で女遊びをしまくって寝ずに面接で行ったためまともな言い訳に頭が働かず、正直にサボったからと伝えたのに、受かったらしい。この人はやはりすごい。その後若葉と合流し三人で飲んだ。若葉と飲むのは久しぶりだった。ここで、二日目以降の各班で最も活躍した人を班内で投票し、一位の人が一言ずつ語るというイベントがあった。前半では先述したおもしろくない奴らの下品なガヤでうんざりしてしまった。空気は二酸化炭素濃度よりも 彼ら が大きく占めていた。少し息を止めて、ビールを飲み続けた。このイベントのトリは、わが班のブレイン、つまりもちろんフリークだった。フリークも自分と同じく 彼ら をバカにしていたが、このアウェーの空気の中、一言述べるために前へ出て行った。かわいそうだなと思いながら遠ざかるフリークの背中を見た。フリークは、しかし、この空気の中しっかり笑いをとっていた。この人は本当にすごい。結局人事とは一言も話さなかった。何をしているんだと思いながら、自分らしいとも感じた。最初の関わり方では、本当にどこか積極的になれないところがある。斜に構えて、俯瞰して、人より上にいるような気持ちになることで、身を守ってきた。インターンが終わった達成感は、ほとんどなかった。


帰りの電車は、他の班の優秀だった京大生数名と偶然乗り合わせた。すごい人たちなんだなと思いながら、大きく肩を落としてしまった(後で京阪に電話したが、その時落とした肩はまだ見つかっていない)。電車の速度が上がって、そのまま夜に溶け出してしまいそうになった。ならなかった。今回のインターンでは悔しい思いをしました。これからもすると思います。勉強を、するぞ。