遥か、リップクリームで描いた海

誕生日プレゼントにもらったそれが何か、彼は知らなかった。それを贈った彼の父も、どこでそれを買ってきたかは口にせず、用途も名前も知らないようだったから、自分がそれを知らないのを何も不思議なこととは思わなかった。

 

ただピカピカで、形がかっこよくて、大きくて、重くて、何か持ち手があって、そういうことで、彼の中では武器ということにして了解していた。

 

なにはともあれ、プレゼントなんて、こんな大きなプレゼントなんてもらったことのない彼は、それが嬉しくて毎日のように持ち歩いた。

 

初めは回転する刃のような部分が外にくるように持っていたが(なんか武器ってそういう持ち方のイメージあるし)、そうするとあまりにも重いので持ち方を縦に変えた。刃の部分は、高速に回転している時こそ危険だが、ゆっくりと地面に沿わせるように移動させれば何も傷つけなかった。これが優しさなのかと彼は思った。神は完全に違うとして雨を降らせた。

 

ある日、彼は珍しく店に入った。いつもは自分の街を散歩するだけだったが、なんだか張り切って隣の街まで来てしまったのだ。すると、自分が今日も持ち歩いている、あの武器がたくさん並んでいる店を発見した。看板には何かが書いてあるが、意味が別の言語を着ているため識字能力とかマジ乙な彼にはまだ理解できなかった。

 

別の種類のそれにも触ってみたいと思った彼は、店内で自分のそれと他のそれがごっちゃにならないように、わざと離れた場所にそれを置いておいた。それが恐らく、彼に幸運をもたらした。

 

店内にはところ狭しと例の武器が置かれている。店員に、この武器を触ってみてもいいかきいてみようか。いや、知らない街だし、今日は見るだけにとどめておこうか。ふいに、若い男の声がきこえた。「気に入ったのあったら言ってくださいね~」。彼にはそれが、「ガキ、戦うか?」にきこえた。

 

ヒッ

 

彼は一目散に店を飛び出した。

 

まだ使い方も知らない武器で大人に勝てるわけねー

 

えーと、どこだ、僕の武器どこだ、あった、あったあった、よかったー、なくなってたら嫌だもんねー、ふつうに嫌だよねー、てかこんなもんデカすぎだし持ち歩くとか無理じゃね?ふつう外置くよねー、でも取られる可能性とかこれなんか鍵?で固定しとく必要あるくね?ん?なんだ?これ・・・・・・・

 

そこで彼は自分のそれに、なにかシールが貼られてあるのを見つけた。

 

「駐輪禁止。この場所は駐輪場ではありません、対処が見られない場合、該当自転車を撤去することがあります。」

 

へー、これ自転車っていうんだー

 

シールには自転車に乗る人のピクトグラムが描かれていた。それを真似してみたらふつうに乗れたので帰りはそのまま自転車に乗って帰った。(15分で帰れた。)