変身
夜が足にまとわりつく ことを差し引いても長い帰り道だった。
同窓会で10数年ぶりに集まると、初恋の人が、たとえば太っていたとか、たとえば皺が増えていたとか、たとえば幸せな家庭を、たとえば自分とは無関係の場所で、たとえば築いていて、たとえばどうしようもない寂しさに囚われる、という話はよくきく。
美しい思い出は海馬に直接ヒットする鉄球となってノックアウト、肩を抱きながらセコンドが浴びせてくれるのは酒で、次に起き上がると自分の部屋。
そう、昨日は同窓会だった。
好きだった人は、例に漏れず、当時とはずいぶん違った姿になっていた。
地球儀になっていた。
好きだった人は、地球儀になっていました。いますた。
どういうこと?
ぎもスロ(疑問のパチスロ)が777。頭の中で疑問のあふれる音がする。
どうやってここに来た?どうやって生活してる?しゃべれるの?どうしてそうなった?どうして?どうして……。
だいたい、好きだった人に自分から話しかけるなんて、恥ずかしくてかなわない自分は、アルコールをたっぷり摂取してから彼女のもとへ向かった。
久しぶり、なんか、雰囲気かわったね。
彼女は静止している。
そういえばさ、あれ覚えてる?二人の夢の話。
彼女は沈黙している。
いつか、外国行ってみたいね、とか言ってたよね。
酔っていることを言い訳に、その地球儀に、いや彼女の体に手をかけて、ゆっくりと胴体を回した。
どこに行きたいって言ってたんだっけ、でもそこは、君の中ではすごく遠い場所で、すごく美しくて、すごく手の届かない場所だって、よく寂しそうにしてたよね、あれ、どこだっけ。
そう聞こえた気がした。
そうだ、アイスランドだ。私は彼女の体に指を這わせた。アイスランドだ。アイスランドは、たしか、ヨーロッパの…
そこで、私は手を止めた、息を止めた、話すことを止めた、その時、すべてが止まっていたのかもしれない。
アイスランドのあるはずの場所には、どうしてか、だけど確実に私の形をした金色が、静かに浮かんでいた。